そのうちに読まむと仕舞ひし本数多資源回収に出してしまへり
懐かしき日本の歌の数々に浸りし会を友らと誉め合ふ
九十四になりて今尚前向きに映さんは手芸の教室に通ふ
晩秋の色褪せし山を背景に皇帝ダリアは地味に咲きをり
夏頃は書けぬと泣きゐし孫の字が皆より褒めらる文化展にて
気まぐれなる天気なれども今日の旅は雨には漏れず運に恵まれて
リオ五輪「諦めない」の連鎖ありて逆転メダルに皆沸き上がる
参議院ふるさと久米南東京都選挙続きて夏も過ぎ行く
薄暗き庭隅に咲く三輪の花の濃き黄が我の背を押す
爽やかなる初夏の無きままいきなりに真夏の暑さがこの身を襲ふ
満開の桜の下にて花見すれば花びらひとつ弁当に落つ
母生れし村は三休公園となりて我らは桜を見に行く
草笛を金婚式にて披露せるビデオの父はまだ若々し
暮れなづむ空に三本雲あるは飛行機雲か薄き朱色
あきらめず求め続くるそのことはいつか実ると示しし優勝(琴奨菊)
子を描けるなんとも優しきちひろの絵岡山展をぜひ観に行かむ
江見東部の作るはあん餅・きなこ餅十七臼を皆で搗き上ぐ
敬老の祝賀の会が為されても出席するは五人に一人
何があれど「なるようにしかならんわ」と高笑ひする媼はたくまし
同窓の友ら集ひて語り合へば世話人我らは気配り欠かせず
勉強が苦手で影の薄い子が半世紀経て従兄弟らのリーダー
「入れてくれ」と手を合はせをる我が居て祈りを実らす「本田」のひと蹴り
さつま芋と共に切りしはわが小指あたふたと押さふ出血ひどく
集中の続くはやつと二十分書を子に教ふるは力のいるなり
手のひらを疲れし友の背に当てて静かに摩れば気持良げなり
御写経を奉納せしはここなるか高野山奥の院の御廟に参る
参加して対処法を学び自信つく脳卒中の公開講座
高台に止めし車の中に居て上がる花火を独り占めする
暗き中雷の音と雨の音弱まり来れば眠りに就きぬ
ラベルなきペットボトルは疑はれその場で飲まさる手荷物検査に
所用あり会へぬと言ひし旧友が待ちて呉れをり都合がつきしと
煙立ち法螺貝ひびく道仙寺の大護摩にわが家の安全を乞ふ
電話待つひとり居の母に届く声遠く離れし街よりの子の声
平生は気にも留めずに過ごししに怪我にて気付く小指なき不便
一日を冷たき雨の暗き空友へ電話し京都を語る
野の花を小さき瓶にアレンジし友を見舞へば薔薇の笑顔よ
裾口にひたと貼り付く草の実を剥がして捨てぬわづかにためらひ
親切なるセールスマンに新盆の教へを乞へば悩みは消えたり
梅雨さなか湿りて暗き玄関に紫陽花を生くればわづかに華やぐ
水蒸気を赤茶の肌より吹き上げて昭和新山は不気味にそびゆ
花みづきは白き花弁の真ん中に黄緑もりててらひなき花
車中にて一時間半を耐へをれば視界に現はるるは醍醐桜ぞ
初めての囲碁ボールといふゲーム終へ「またしたいね」と友と言ひ合ふ
悶悶と詠めぬ日続きいらいらと落ち着かぬ我何を為せども
四国をば歩き遍路で完歩せし弟は今何を思ふや
昏睡の義母を目覚めさす点滴は魔法のごとき医療の力
ことしまた見たしと思へど叶はぬに京のもみぢが瞼に浮かぶ
わが村の三人家族はもうすぐに六十五歳以上ばかりとなるぞ
茜さす峰より出づる太陽に手を合はせ拝む何とはなしに
トトトトと庭に降り来て餌を漁る見慣れぬ鳥につい見入る我
いそいそと家事為す時も座す時も頭の中を言葉が駆ける
ほととぎす聴けばなつかし亡き祖母が「おっつあんこけたか」と我に教へき
同窓の友が募りし義援金東北に届け時を移さず
顔あへば泣き声あぐる外孫は幼きころの娘に似をり
ほほかすめ「スー」と飛び去る鬼やんま汝に出合ふも今は珍し
震災に思ひを馳せる絵が並び派手さの消えた祈りの院展
北向きの岸に残れる凍てし雪向きの違ひが寒暖を分けて
農協の地産地消の取り組みを料理教室にて我も体感す
頬を刺す寒さこらへて見上ぐるはひと夜のうちに欠け満つる月
「サロン」にて地域の皆と真剣にさまざま語る健康について
節分の厄除け祈祷を受けし札息子と娘にそれぞれ送る
雑草を削りし後に土を入れコスモス育つを願ひて種蒔く
「叔母ちゃんのばら寿司食べたい」との甥家族にふたたび作れば笑顔を呉るる
リサイクルにひと手間かけて貢献する混ぜれば塵よ分ければ資源よ
老い父を連れし息子の頭にも白髪の多かり医院の待合
ししたうにモロヘイヤにと子どもらが千切りてくれしは大小さまざま
怒鳴られて内に溜まれるストレスは我慢のそれより多しと気付く
印刷の年賀状では味気なく添へ書きをなす百枚すべてに
道すがら田植の光景目にすれどどこにも人はひとりかふたり
熊鈴の作り方をば教はりて作りかけしがいとむづかしかり
倉敷への抜け道探して地図を繰る明日訪ぬるは「春の院展」
きつぱりと「廃案にせよ」とは気持良し時事放談にて長老言へり
子ら学べる後すがたを光政の見てゐし部屋よ手狭き庵
三日月と明けの明星近かりて東の空の雲は驚し
歩み来る子らの集団珍しく何かと見れば亥の子突きなり
黒石 初江 作品集