わが町をゴーストタウンと人はいふ大型店に潰されをりて

とれたてのいちごを旨しと食ふ幼見詰めて夫は小粒を食みをり

茶を飲みてむせゐる我に「だいじょうぶ」と背をさすりくるる三歳の孫

「おかえり」に答へず行きし下校の子「黙って行った」と我見る幼

路線バス制限時速守れるに遅しと思ふ吾なに急くや

ばあちゃんは乳出ないのと問ふ幼まん丸い目をしてわれを見詰めて

稲穂指しこれお米よといふ幼一度教へしを未だ忘れず

「ああちゃん」と呼びくれる児のかはゆさを伝へ来る電話長長となり

目覚むれば多くの人と語りしを覚ゆるのみの元日の朝

孫二歳初登園よ「バイバイ」と振り向きもせず入りゆくなり

母の肩に頭あづけて高熱を荒き呼吸して絶えゐる幼

若人の自転車の群れ颯爽と横断しをり梅雨明けの朝

幼児はめめが痛いと瞼押へコンタクトレンズ外すまねする

猿するよ幼は机にぶら下り赤い顔して拍手を求める

ここだけは手刈にしようと夫が言い稻刈る鎌に姑をば偲ぶ

アフガンの少年画きし自画像に大き三粒の波タ描きあり

障子にさす薄明り少しづつ早くなりきぬ春を告ぐるがに

幼き日母と歩みし草原を孫とゆくなりつくし探して

畦道に今年も可れんに咲き揃ふ白いタンポポクローンに成りて

僅かづつ細身になりゆく包丁を今宵も磨ぎをりわが身も同じか

雨続きに田おこしいつせむ呟きつつ夫は気象情報見詰めゐるなり

束のまの晴れ間のありて薯を掘る異なる形皆おもしろし

障害をもちし子どもらあずかりて澄し瞳に迷ひ消えゆく

庭先に熊蝉一匹飛び来り高き声にて鳴き続けをり

ひたすらにビデオカメラはわが子追ひ運動会は静かなりけり

旅行きにこれがよきかと姿見にわが姿映しまた映しみる

動かないと年をとるよと賢しげに孫はいふなりわれに向ひて

お年玉アップしてよと孫はいふグローブ買ふと割当てをして

お年玉を割り当てて買ひしグローブを持ちて来し孫笑み満面ぞ

虐待を受けゐし子らは多からん鬼子母神の袖は覆ひきれずや

この痛み陣痛かとの娘の問ひにアクセル踏む足力が入る

抱きゐる児が微笑めばその母も微笑みながら語りかけをり

「なっちゃん」と呼べばにこりと微笑みて抱けといふがに手足動かす

懸命に母乳を飲みゐる嬰児の乳房おさへし手力抜けゆく

一葉が新しき札の顔となり札もやうやく平等となる

苫田ダム水を湛へて完成す半世紀の争ひを湖底に沈め

肩痛むわれに向かひて八十肩と娘らいひくるまだ七十余歳ぞ

新聞にてわが歌読みしと古き友問うてくるなり健やかなるかと

「食べろ飲めよ」と指図せし夫時たちて優しさなりと今胸痛む

幼児は小さいごみをつまみゐる行き届かない掃除を知らせて

幼児はよきも悪しきも見習ひて靴に砂入るる公園デビュー

雨なくて咲く紫陽花の花も葉も潤ひなきはわが肌に似る

「汗衣脱いできたよ」と夫はいふ真夏日続く夜の風呂上り

幼児はわれの手払ひ臥す母に纏はりつきて為す術もなし

道端に並びゐし幟台風に飛ばされゆきて竿のみ立ちをり

悠然と車道を歩む若き鹿止まりし車も緩りと待つ奈良

 新井 和代 作品集