わが作りし黒豆やればお礼にと妹から来し燻製焼豚

家を建てし姪よりきたる冊子にて貰ふ品をば選びてをりぬ

一年に何回化粧をするならむ今日は歌会紅をひきをり

「産水の郷」にわきでし真清水の青く流るる吉野川なり

「ベトナム」へ出張の子を思ひつつ単車の多きを映像に見る

山茶花の赤色ピンクと咲きそふ余寒ゆるめる今朝の門先

その兄の絵本を曾孫がよこどりして田の字作りの家内を走る

はこべらに芹をなづなに入れたれば緑の香がみつ七草粥ぞ

歌友らと旅せし景色を顕たせつつ掛軸にみる渡目橋絵図

ラベンダーの鉢入口へ置き換へてわが手を添へぬ数多の小花に

かの日には桑畠なりにし丘の畠「里道りどう」が故 に草原を化る

東京ゆ訪ひこし客が杜鵑草を「うぐいす草」かと我に問ふなり

みのりくる蕎麦畠を独りして引き抜きてをり霧ふかき朝

雄町より来て「虎ちゃんたんぼ」への道を聞く紳士に指さし説明をする

夭逝の夫の表札あげぬまま父の表札を子の名としたり

初稲穂ぞ小さき花が数多なり直ぐ立つさまにゆるる様にと

胡瓜茄子ピーマン人参揚竹輪われ炊きたるを旨しと若きら

清盛が再建せしとふ「根本中堂」比叡の山に行きて観たかり

早苗田の高岸よりの落ち水を滝とはづめる街よりの子等

若きらにスパゲッティを炒めをり肉どつさりと野菜も多めに

真夏日にも凍てつく土にも籠りゐしチューリップ咲く四月半ばを

カローリーを気にする人の甘味料「スイナンロー」を入れたるコーヒー

東京ゆ帰りきたれる子等に盛る青紫蘇と雑魚の手作り佃煮

「あつ翡翠かわせみが小魚とる」と初めてを見てを りわれが息とめてをり

「クエスタ」に浅草寺をば観てをりぬ姉妹四人にて見あげし龍と

「匂ひ艶」柚子湯に柚子を寄せあつめ肩を撫でつつ歌唄ひをり

若き日に飛鳥川辺に住みにしよ明日香のことなど何も知らずて

作りたる海苔佃煮は甘辛し湯豆腐にのせて夕餉の一品

うかららと墓に参りて直ぐだてる夫の墓石にわが背を伸ばす

疎開時に一粒の飯を舌にのせころがし食べしを語れる嫗よ

カロリーを気にする人の甘味料「スイナンロー」を入れたるコーヒー

この宵を多目にふり込むバスクリーン畠打ちしわれを癒さむ褒美と

床の間に食卓にもと菜花挿しほっかり艶ます黄の色と居り

繭玉に似る落花生を炒りあげてペンチにてむくお節の一品と

豆ごなし終へて旅にと行く父をのんびり送りき二十年経つ

かど先の紺菊の花見てをりぬ「蔵王堂」に辺にも咲きゐるらむか

東京は雨とテレビの報ずるも村は小春日コスモス揺れる

東京は雨とテレビの報ずるも村は小春日コスモス揺れる

長雨に稲の穂の出のそろはぬに篤農男と畦に立ちをり

涼風が稲の葉先を渡りゆき水音ちさく小鮒群れをり

バイパス辺のペットボトルを拾ひよせ洗ひてをりぬ資源回収と

杉山の緑の中の藤の花紫あはく光をゆらす

畠すみの桃の花花かげうけて香りぬくみて蜜蜂呼ぶか

吉野川の水流れゆく我が村を慈しむがに「し」に字の穏しく

娘が手なる恵方太巻両の手に東北東向きかぶれば温し

旧正月の雑煮を仏に供へつつ魚貝のうまみのなきを寂しむ

街に住む若きが来たりて「初めて」と抜く大根の白き小太り

湧き水とふ平等院の池の面に小雨の描くやさしき水輪

白妙向日葵きらめくがにも咲きに咲き六十本を供花とはなしぬ

飯の中に虫だ虫だと孫達よ米の虫だとへつちやらなる我

歌の友の土産の菓子を含みつつ地球儀はしてスペイン確かむ

崇道天皇の供の土着か加茂町に墓碑あることを不思議に思ふ

咲きかかるシャスターデージを摘む幼ママにあげると笑顔のよろし

寂聴に「定命」あるを聞きにけり定命も又この世の無常か

わが身長皇后様と同じよと笑ひまきたり同窓会に

和服姿の「龍新人賞」の友かこみその歌唄ひて華やぎをりぬ

神神の国取り合戦知りしゆゑ親しき心地に神棚祀る

おほい立つ杉の大樹よ吉水神社に別れをきめし「静」のまぼろし

五時間をつづけて眠れし喜びを神に仏に己にも言ふ

わが町のパルテノン神殿様式の「バレンタインプラザ」に族と昼餉す

わが背より伸びて花咲く紫苑なりうすき紫光にゆれつつ

ほろほろと枝垂れ白萩散りをりて花陰に恋ふ手植ゑし父を

地蔵なる弟の口に水やれば頬笑むがにも滲みゆくなり

茄子ピーマン焼きて味付はペッパーよ族そろひて「はあい乾杯」

乾きゆく「プラ」の袋を緑の風がかしやかしやかしやと唄はせて行く

零歳にも雄のシンボルちよんと見せ炬燵に眠るよダックスフント

岩清水わかして点てし茶を供へ弘法大師会始めむとぞする

焼き初めの餅供へつつ仏には魚介の旨みなきを寂しむ

千坪の減反田の蕎麦の花ゆらぎゆらぎて一面の白

井上靖の生誕百年『しろばんば』夢中に読みしよその幼日を

初めてを来たれる「久賀ダム」これの地も美作市よと娘と話しをり

地蔵なる弟の口に水やれば頬笑むがにも滲みゆくなり

梅雨空を川の濁りを晴らすがに峡啼きわたる時鳥かな

鶴瓶らが打つ付け本番に家族を問ふその展開をわれが楽しむ

あさり汁に父母を夫を弟をふと憶ふなりわれは生き継ぎ

枳殻邸に友とさがせし八重葎が畠に庭に春を伸び伸ぶ

短歌二首の清書の紙を切りながら世話係なりし和さん思ふ

神厩舎の見猿聞か猿見あげつつわが来し方のふと温かき

行商に服売る媼と拒む吾と共に愛であふ紫花菜の花

母との旅なかりしことを悔やみつつ江の島海岸ほつほつ歩む

「はびこる」と祖母呼びをりしはこべらが減反田に誠にはびこる

「見上げては歓声をあげ押されつつ押しつつ歩む「神戸ルミナルエ」

新婚の旅にて歩みし「高師の浜」五昔前も今日も松風

雨にけむる近つの丘よ博物館よ古代の太刀の寂かなるかな

「紫上」の衣しのばせしか十二単茎のばしつつ紫に咲く

「花花は人を待たず」と独り言ちシャスターデージーの花柄を刈る

朝霧にぬれつつ鳥の声ききてはや花をもつ蕎麦畠を打つ

榧の実が色づき甘く香にたてば随心院の「小町」を想う

絶えゆくを危惧されてゐる藤袴そこここに咲くか熊楠旧家に

ほのかなる茜の空にジェット機の銀に光て銀の糸ひく

藁苞を模したるその上にむかご芋うす紅あまくホテルの前菜

吉野川流れくだりて吉井川「西大寺」の辺の満満たる水

大撫山より眺むる雪の山脈よ自分と言ふは小さき生き物

菩提寺に幾十万円寄付せし日スーパーに見るは値下げのメロン

小学校に入学せし日の桜花古希むかふるも目裏にあり

古木なる辛夷の花ばな見あげつつ歌稿もちゆく和子さん宅へ

潜りきて少女子われらの足を引き「ごんごごんご」と彼の日の男の子

若き日に『虞美人草』を読みにしよ記憶はおぼろに虞美人草咲く

蔵のなかに二斗桶の箍ゆるみゐて歳月といふは寂かなるかな

穂の出るも頭のたれ方弱き稲かんかん照りの太陽を待つ

絵のなかの露草の花いとしくも減反田には猛だけしかり

わが峡につめたき霧のとどまるに透きて見ゆるは白き太陽

大東亜戦争十二月八日に勃発す籾ほしをりき我は七歳

すとすとと蕪きりおろし酢のものを作りつつゐてふとうかぶ歌

小岩かみて白く波だつ吉野川逆巻きにつつさんざめくがに

ビンラデイン貴様男か男なら飢餓から救へよ幼と女性を

目のかぎり若葉の山山見わたせば久遠悠久現世の無常

目のかぎり若葉の山山つづきいて杜鵑なく畠打つ我にと

一筆書きの気魄みちみつ富士の絵よ盛り固まれる燻し銀色

病弱なる母にコーリャン粥作り働く少年「間島の夕映え」

枳殻邸にさがしてをりぬ八重葎すこし気取りて「百人一首」の旅

あはき陽を玻璃戸のうちにまとひつつ生あるもの等の老をかなしむ

姪の児の生れて十日の睾丸を金二両もつと羨しみてをり

向山も村も包める夕霧よわれもほんやり外灯抱かむか

帰り来し孫に数寄焼きせむとして丹精の葱どっさりと抜く

食卓に緑をそへ来しモロヘイア種をつけきぬ秋闌にして

テロの国激震の国子の街にても月仰ぐらむ何れかの人

神島外浦日光寺に建つ「万葉歌碑」真日も祝ふか二百余人と

変へられぬ過去にてあれば諦めて残世と言ふを「ケセラセラ」と

寒の陽をあつめゐるがにポリアンサ黄の花ぬくぬく軒下に咲く

干しおきしモロヘイアも紫蘇も手にもみて「きな粉ふりかけ」作りて春立つ

春分の日のたけてゆく墓所にきて色即是空空即是色

坂本龍馬生きて登城はなかりしと添書ありぬ維新の雄をや

 長澤 和枝 作品集