マラソンの映像から知る吉備路なり五重の塔に菜の花畑

国旗にて祝ひてをれば我に聞く道行く人が「今日何の日」と

月蝕をテレビと比ぶるかのごとく外にも出で観る八十路の好奇心

咲そわふ「シャコバサボテン」の見事さに訪ひくる友が癒やされてをり

浅田真央のショパンの曲「ノクターン」華麗なるステップに魅了されをり

「スマホ」にて見せらるる曾孫の成長について行けざる我八十三歳

待ち呉るる君を想ひて香焚くに今更気づくは過ぎ来し四十年

学びきて幾年なりや短歌の道愉び苦しみ伴侶となしつつ

念願のマラソンランナー重友利佐は一位をなりぬ「五輪」へ行くや

『遊』といふ短歌の友の合同歌集に心遊ばす寒き夜を我は

「東京」ゆ来て小町ろまん「短歌大会」に恋歌作れと講師の鼎談

二人して植ゑし楓も半世紀われを癒すか新涼の風

卓上を賑はす「ぶどう」「二十世紀」友より届きて絵手紙に描く

恙なき幼馴染と会へる日を花の黄色の揺れ止まぬなり

「産みたてよ」と友から貰ひしうずらの玉子掌にのせ命を思ふ

隣より幼の鳴き声聞こえくるテンション上がるは二声目より

「寂しいよ」なんて言はない方がいい待ちくれる人は仏壇に居る

休耕田耕作放棄地眺ぬるに浮びてくるは孫正義の顔

雑草とも覚しき小草を抜きをりぬクリスマスローズの鉢の湿めるに

もくれんが「幸せです」と空にあり人工関節の我も言ひたし

いくつかの面映ゆきことを受け入れて涼やかに立つ未だ七十九歳

年ごとに蕾増しきて八重椿空を恋ふがに上向きに咲く

朝刊の紙面に載るは師の叙勲歌詠む我らの誇りなりけり

ニュージーランドに学ぶ行きし若き等が地震に埋もれて命果てたり

ドレッシングの期限切れにて迷ひをればテレビが伝ふ偽装のニュース

静まりし里の住処に彩れる楓の紅葉空突く公孫樹

テレビに見る奄美大島の災害よ涙なくして見られぬ惨状

忍び音を聞き漏らさじと待ちゐるにまった無きがに驟雨来たれり

青葱を刻むリズムは狂はへど滴る汗に滲み滲む目

雪解けに淡く濁れる川の面を白鷺群れて北に南に

散歩道夜来の雨にいくつもの水溜りとなりて空に映すも

釣り好きの夫の面影偲びつつ夕日に輝く川面を追ひ行く

余す世を如何に生きむか戸惑へど短歌への道吾が知りて生く

山茶花の蕾はほつほつ開き初め心揺らめく川土手の道

瓶に挿す金木犀の香も添へて独りの朝の味噌汁美味し

七草のひとつひとつの追想を綴りてみたし三十一文字に

何事も無き日の幸せ感じつつ窓辺に今朝も朝顔の赤

筆をもち短歌を書かんとしをれどもその術のなき老いの哀しさ

騒ぎゐるインフルエンザの恐怖より認知症とならむ未来が恐し

聞き耳は窓いつぱいの若葉にて受講生の目は万葉集に

雨音の激しくなりてペンを置く珈琲飲めば歌成らむかと

一冊が私をぐいっと引き寄せる拙い私を抱きとめるやうに

見つめ合ひ笑ふでもなく腰掛けて温泉上がりのソフトクリーム舐む

柚子風呂の湯はあふるれど出ぬ柚子を並べて見たり苛めてみたりす

並べ行く三十一文字にてなる短歌誰も邪魔せぬに脳に並ばず

高齢者と言はれてみれば濡れ落葉否夕映えぞ我老いてなほ

酔芙蓉朝の白さと夕べの紅我も習ひて酔うてみたかり

我が名前呼びゐる声に意識戻り安堵をしてか水飲まし呉るる子

生きてゐる喜び愁ひを思ひっきり梅雨のあひ間の青空に遣る

五月晴れ祭りの空に打ち上がる花火の白く尾を曳く煙

「かぐや姫」「衛星かぐや」「青き地球」生きながらへて不思議不可思議

中学二年の孫はバレンタインのチョコレート八個もらつたとはにかみて言ふ

何時しかに部落の中では高齢者慕はれつつも労られをり

柚子の湯に鼻歌まじりの老一人幸か不幸か静かなる暮し

夫植ゑにし楓一きわもみづりぬ逝きてよりはや三十余年よ

生業に苦楽を共にせし販売車我が夫のごと別れは悲し

ひがん花横一列に並びゐて運動会の応援聞こゆ

帰りこし孫は子の丈既に超し声変わりゆく愛しい中二

音立てて独りで啜る冷素麺トマトきゅうりもジャズのごとくに

水の香を纏へる蛍よわが掌より夜空を舞へと又放ちやる

「青春」となりきっている柿若葉燃ゆるがごとく照り輝きて

花影を映す池面に風吹きて弧を描きつつ浮かぶ花びら

賞味期限もう切れさうな生玉子茹でたり焼いたり朝の食卓

葉牡丹に夜さりの雨の光りつつころころ転びて葉の渦に消ゆ

奥深き我が師の歌集読むほどに友と短歌を学べる幸せ

この一年「命」のはかなさ極まりて日本の未来への不安にをののく

冠雪の大山空の青を突く大パノラマにカメラの放列

朝一番に見たる新聞紙面に載りし「師の受章」嬉しくもありほこりでもあり

初瀬川の清き瀬音や椿市観音椿の古木に秋風わたる

ねこじゃらしになかば埋もれし道標すばやく蟹がその根を走る

一握の砂で描きし人の名は吾を生みくれし母の名「愛子」

一日の喜怒もくまなく沁みてくる更けて浸れる独りの柚湯に

枝先のこぶしの蕾光れるは天突く蕾の溶けし初雪

パソコンもメールも使はぬ独り居に温温として龍誌読みをり

雑木木に桜咲いたかと思はせる今朝のマジック霧氷のマジック

薄紅の枝垂れの梅の華やぎよ夫在りし日を物語るがに

五月晴れハートのやうな浮雲よどの風に乗り何処の街へや

ほろ酔いて「君が初恋の人」と聞かされて改め見直す七十路の顔

古寺の土間はさやかに風通す極楽浄土の余り風かや

ぼんぼんと大玉トマト色づくに出来ばえ誉むれば三つくれたり

そこの蝉音量上げてしき鳴けよ命わづかに七日であれば

立ちどまるは金木犀の匂ふ角乙女の頃の熱き思ひに

「おいしいよ」張絵の芋の葉書くる孫は三歳保育園児よ

秋冷の幽谷めきて月深ししみじみ余生の侘しさにあり

誕生日を独りで祝ふ温め酒今年は羊の年女なり

凍てし道を友の通夜より帰り来ぬ我が命終を思ひながらに

ひと雨に辛夷蕾ふくらみて見上ぐる空に小紋を描く

雨あがりぽつんと落ちたる紅椿七十路いまだ色鮮やかに

霞みゐる琵琶湖に浮ぶ竹生島見つつ偲ぶは周航の歌

瀬戸の海に汽笛は遠く朧にも浮ぶ青島黒島黄島

商ひて健気に生きゐる七十路を守りくるるか四十路に逝きし夫

全身を共鳴体に成し終へて青春に戻るかコーラスの夜は

朝顔の今朝咲く花の五つ六つその鮮やかさを夫の供花にと

みんなみの暗き夜の空唯一点赤きは火星宇宙の不思議

励みきて二十五年のコーラスを今日チャリティーのコンサートと成す

柚子の香の溢れこぼるる浴槽に鼻唄まじりの我のひととき

初雪の降り積りゆく街角にバケツかむれる雪だるま立つ

雪を呼ぶ風か落葉をめくるなり山脈白くベールに包まれ

沈丁花の花を散らして降る雨に芽吹く擬宝珠を待ちこがれゐる

「いいかげんに迎えに来てよ」といいをりて目覚めてしまへばいそいそと商ふ

かいの村に著莪群落は彩放つ木漏れ日ゆれつつ雲流れつつ

一目惚れ「冬のソナタ」のヨン様に騒ぐ熟女の夢にも分別

池面に吹く風に彩あり合歓の枝遊ぶがごとく揺れて映れる

蕎麦畑に濃き山影の映りゐて過疎の山里郷はやも夕暮れ

初日記夢いろいろに膨らますどんな余生を綴れるだらうか

詩に渇くことなく生きし生きざまを帰省の子等は異口同音に言ふ

わが里に黄砂を降らす季節風花粉はいらぬぞ平和の種こそ

ちりばめる犬のふぐりの碧き彩春の愁ひと我は愛しむ

魅せられて愚かなる時を追ひてみぬ韓国ブームのドラマの一駒に

新緑の漲る庭に咲き出でし芍薬牡丹の白の盛衰

木下闇にどくだみの花の白十字「わたしここよ」と風に遊ぶか

くるぶしが並んで歩く下駄の音浴衣の乙女今夜は花火

居並べる車列にハンドル握る人皆それぞれに見る赤信号

 角南三津ゑ 作品集