ざわざわと時代の流れの風しみて老いてもニュースに心病む日日

空晴れてとびゆき育つ野辺の花何処の場所で冬をこすやら

岸辺なる露草清らに咲きてをり日暮になれば露をやりたし

老い我を見かねて日傘に入れくれぬ我はほっとし笑顔となりぬ

花をもらひ生け花にしてうたた寝は歌会の友に見てもらふ夢

風もしづか訪ふ人もなく独り言見上ぐる空には春を待つ月

夕風の吹きあげてくる坂道に耳遠き友と泥む話よ

静かなる能登香山の上の空冬空となりて年の瀬せまる

車中から見るは津山の城跡の風船しかけの天守閣なり

月光の深まる夜の寒さにも熊の足音聞こえくるなり

朝早くいくつもの町通り来しか宅配便の声わが家にひびく

表に出でて自転車の子供の声聞けば楽しくありて老に笑みあり

たまものの今日ある命老いの道励まむ一歩命の重さ

ひとよさの雨はあがりて棚田より落ちる水音庭に出で聞く

なつかしき昔のアルバムふる里の友ら減りゆく去り又逝きて

夏川に陽のさし入りて清水わき泳げる鯉が鮮やかに見ゆ

老いし我ものを忘れじとメモすれど捜しまはるか齢の淋しさ

草花の可愛ゆく咲いて道しるべ墓前の経も心静かに

冬の夜に窓にさしこむ明かりあり急ぐ車よ何処に帰る

やはらかき春の朝日の岸辺には数多の桜舞ひちりをりぬ

まるまると月の昇りし能登香山優しき風に青葉がそよぐ

帰り行く友の姿は森の中いつもの峠に姿消え行く

秋晴の野に舞ひし白鷺の空わたり行く羽音は聞こえず

大根の葉に降るしぐれやさしくも夜はするどく凍ててゆくなり

冷えゐるに家の中では梅の花ちよりちより咲きて春知らせをり

満開の花にも似たりし友なれば天国にても咲け念仏あげん

長雨のやうやく晴れて足もとを吹きゆく風は早生穂をゆらす

夕焼の赤きにそまれる虹のはし山をこすあたり消えて見えざり

 森本 久子 作品集