テレビ見つつめまひをぼゆるは年ならず遠くて近き大地の大ゆれ

今日も又機械は土をけづりゆき古よりの荒山消えゆく

十三夜の月を残して窓閉めん菜の出荷ありて朝早き身は

蚊とり線香腰にぶらさげ草刈りて帰省せし孫は大学にかへりゆく

高原の畑はま黒き土にして若葱凛凛と春風の中

宮人の御車も訪はれし大原の池に花弁寄りそひ流る

畦道に並ぶ園児らの串団子村の旧正月は梅も咲きゐて

金色の扇子ステージの空に舞ひいつしか寄り来て大河と化りゆく

山霧に包まれて菜を採りをれば「ミレーの晩鐘」だとほほゑむ友よ

棚田の上の冬菜の畑広くしてあねさんかぶりの笑い声ひびく

孤高なる杉の梢に鳥一羽今ねむるらし夕日差しつつ

越中の旅に見てより忘れえぬま白き連峰は今雲の切れ目に

子の名呼びお酒のみたくて還りしかと佛前の蛙にいふ身よりなき友は

日の丸をふりつつ征くなと泣いた児が今その父を逝くなと抱きしむ

何回も何回も大きなうなづきとほほゑみ見せて若き子の門出

藁屋根に大鯉幟は足の下キャベツ畑より高い処なし

成田不動のお守りが身代りになったという大戰の話は言ひつくせぬ兄か

幼より育てし庭の老杉が屋根にもたれてざわざわとなく

南まはりの三か月余の船旅より帰りし友あり我は味噌繰る

龍宮城を夢にしみつつ幼帝の消えられしとぞ壇の浦はや

あこがれの那岐の新緑窓にあり講話は耳に心は樹林に

ベンガラで築きし富の垣よりも想ひは及ぶか坑夫のくらしに

父母の居ましし頃と変りなく千羽の烏城跡へ還りゆく

リハビリの乙女に合はせ愛犬も寄り添ひてゆく夕日の野道を

寒の水に裸にされし白葱が旅の人らに買はれて抱かれて

引き抜きてずるりとむごく皮むけば白葱の肌脈をうつごと

祇王祇女かなしき都の物語り夢は嵯峨野をさまよひおるや

意識もどり瞳もきらりと光り来て八十路の兄の再びの生

清き瞳口一文字にひきしめて子供歌舞伎にみなしづまりぬ

 名部みどり 作品集