長年にわたりて使ひしパソコンも故障が起きては今日でお別れ
初雪に霙の混じる冬景色まるで墨絵のやうで見とれる
運動も音楽美術も幅広く出店が並ぶ「九大学園祭」
夜明け方星を眺めて嗽すれば煌めく星が晴れを知らせる
秋祭りに来る孫たちに元気出し巻き寿司揚げ寿司鯖ずし作る
夏休み都会の孫が畦道で捕りし稲子を佃煮にする
山間に烏骨鶏の声響き渡り萎れた身にも活気溢れる
先生に手解き受けて念願の蓬だんごも色濃く美味に
閉校のわすれな草も名の如く春巡り来て花盛りなり
出迎へも見送りもまた笑顔にてもてなす心ようどん工場見学
味噌の味に幼き頃を思ひ出し蘇るなり母の温もり
桜花舞ひ散る街を歩みをれば早くも店に扇風機見ゆ
機嫌よくお湯から上がる客たちの話の種はジビエの食べ方
この年は季節はづれの猛暑にて倒るる人も年齢問はず
秋の夜を窓の外から虫の音が激しく緩く流れて来をり
電柵をしても猪めの親子づれに刈り取り前の稲は泥塗れ
広報に見る嬰子の読み難き名に戸惑へど末を待ちゐむ
招待状出した側より受けた側が大ハツスルしてドキドキワクワク
増水に溢るる水が流れ出し沢がに集ひて集団見合ひす
時鳥鶯の声の響く中膨らんできた筴豆を取る
桜花短き命に音もなく散る坂道は「愛の小径」よ
市営バスに乗り降りもなく黙々とひた走り行く無人のバスは
「軽トラ」に布団も衣類も盛り上げて嫁入り布団をも焼却場へと
上半身を先生に診て貰ひては秋空見上げて鼻歌まじりよ
介護する介護さるるは夫婦かや老老介護は目前に来る
雨降らず田畑の野菜悲鳴あげ水を運んでボトルで飲ます
初めてのボーナスを貰ひし男の孫が祖父母に届ける食事にでもと
二日にて田植ゑを終へたり種蒔も育苗管理も終へ来し我らが
登下校の子らの送迎親たちの日課となりぬこれも時代か
梅の木にピンクの蕾付きにけり雪舞ふ今日は母の命日
社会人一年の孫も幼子のいとこたちにはとし玉をやる
藪中も道辺のあたりも筍をとことん掘るは繁栄の猪
予防注射を頼みますと言えば「ただ券をお持ちですか」にありませんと言ふ
ハンカチに包む保冷剤老い首の後ろに巻きつけ暑さを凌ぐ
年の瀬に孫らの顔を想ひつつおせち作りに三日を費やす
寒空にひときは映ゆる黄の色に春を呼び出す臘梅の花
古希迎へこれから先は誰からも愛され好かるる婆に祖母にと
山路に師走の風が吹きゐるにあせぼ・つつじの花は浮きたつ
また一人わが家の宝巣立ちゆく能登香の里に夕焼け寂し
毎日の暮しは「こと」の積み重ね掃除洗濯食事健康
蒜山の紅葉の続く道の辺をスケッチしては散策をする
今年またいつものやうに栗の実が我が家の庭で膨らんでゐる
この夏は暑いですねが合ひことば猛暑に嘆く老いらくの身は
孫たちも浴衣着こなし夏祭り花火大会の華ともなりて
逆さまに吊し干したるラベンダー長き昼夜を香りてをりぬ
卯の花にほととぎすまで揃ひしにことしのわれはいまだこたつに
はち切れんばかりの実に似てきゆきゆきゆきゆと染井吉野の色付く蕾
朝日差す公園の樹々は束の間を水晶となりて輝きをりぬ
話したり食べたりもするこの口は良くも悪くも災ひの口
積雪にはしやぐ子どもは着替へして暗いうちから橇にてすべる
薄日射す軒の風鈴ゆらゆらとかすかに揺らす初春の風
青き空深まる秋に猪熊も共に生きをり美作の地に
常ならば不気味なほどの横田坂長老の通夜に車往き交ふ
ばちばちと氷がガラスに突き当たり天地を結ぶ雹と稲妻
あんまりと香りを立てる金色の小さな花びら木犀の花
にわか雨真面に受けて濡れながら帰りを急ぐ女子中学生
ハアハアと汗水流し野菜採る初経験の都会の子ども
扇風機右へ左へ首を振りしなやかに舞ふ湯上りの髪
首まはり頭の上をもぞもぞとするに鏡を見れば百足ぞ
雨に濡れ雨に打たれてしつとりと梅雨空の下に咲けるあぢさゐ
嫁の家へ入るとすぐに孫が言ふおばあちやん碁が出来るんかなと
旅立ちの春巡りきて万葉に詠まれし能登香の山をあとにす
山峡に煙たなびき昇りゆく木材燃やす夕べの畑より
旅に出てお金を遣ひ気も使ひみやげものにも気遣ひて買ふ
採れたての松茸を手に匂ひ聞ぐ祖母と狩りにし昔想ひて
孫たちが敬老の日に手作りせし「孫心ランチ」よ父母と戴く
暑い陽が照りつける畑に苦瓜は青青と繁り実をつけてゆく
旱魃にて畑の南京枯れ果つれど堆肥の上は今盛りなり
階段の上り下りに痛む足自信ありしが齢のせいか
中学の制服着たる末の孫大きめの服に初初しかり
大みそか家内安全願ひつつ歳神様に年桶供ふ
新聞の文字の拡大近くあり老齢の身に湧く期待感
過疎の村家族総出で亥の子搗く雨の中を全戸巡りて
小豆畑熟れゐるさやがちらほらと初もぎをする秋分の日に
代代の先祖の墓にぬかづけば亡き人のことら甦り来ぬ
梅雨明けの田には早くも稲穂見え花を咲かせるこの「こしひかり」
蟻さんはひらひら落ちる花びらをふとんにしてる気持ちよさそうと孫
懸命にボール追ひかけ土だらけ張り切りプレーする「スポ少」の子ら
新梅のピンとした肌うす赤くわが口元に唾液がポロリ
会話聞き出かける気配に二歳児が車庫の前まで先まはりする
おとうさんはなにがなんでもこれだけは必ずや見る芋たこなんきん
年重ね何かにつけて身につかず奥の手として忘れ技あり
秋風にいが栗揺るる木下に幼子たちが落つるを待ちをり
陽を浴ぶる那岐の頂き白く見え子らはこの地に雪降るを待つ
初孫の入学式に子供よりハッスルしている母親の服
戦争の跡は地獄絵か泣き叫び助け求むる病院の中
朝早くクワガタ捕りに急ぐ子ら期待を胸にか秘密の山へ
風邪ひいて学校休む男の子いつもと違ふその母のやさしさ
亡き母の四十九日を済ませしが寂しさは増す穴のあきしごと
テレビ観て挑戦したる新レシピどんな味かな広がりゆく夢
店の中あれもこれもと半額なれどいろいろ着ても寸法合はず
休校日喜ぶ孫らはおやつ食ふなぜか机に本を広げて
スギ・ヒノキ花粉飛び散る当たり年負けないためのサプリメントも
親子亀初夏の陽浴びて立ち止まる何をかんがへ二つ並ぶや
父の日に小学生が母さんと百円ショップでプレゼント探す
空高く小さい秋は手をつなぎ手をつなぎては大きい秋に
枯葉道にかたちきそひしもみぢ葉が風に吹かれてひらひらをどる
「きもの」着る機会少なくなりし今楽しく自由に身につけてみる
竹藪の竹切るごとに変はる景隣りがそばにすぐそばに見ゆ
いちご畑に孫の笑顔を想ひつつ熟るるを待ちて狸に食はれぬ
むし暑く寝ぐるしくとも夜明けには布団をかけをり彼岸も近く
「おっぱい」をねだる外孫かき抱きふくませてみる乳は出ずとも
ヤンキースのマウンドに立つ大舞台田中将大の第一球はや
「三・一一」の大震災より早三年人ごとだとは思はれもせず
雨雪はいつもは空から落ちくるに今日は下から吹き上げてくる
雪溶けの泥濘走ればぴかぴかの車もすぐに縞模様となる
夕餉どき会話の弾みにこぼるる飯加齢の故か子供返りか
戦後から六十九年目きずあとの体験話に耳をかたむく
苦瓜が重なりあつてぶら下がる天ぷらチヤンプルピクルスにせむ
除雪するに同じ美作市内でも北は除雪車で南は陽射しで
あちこちの炬燵五つも片付けて部屋も心も五月晴れの日
朝夕に何処へ行つても聞こえ来る時鳥の声録音の如し
笹百合の蕾五本を活け観ればふんだんに咲きし昭和を想ふ
夏休みに街の孫たち二週間を親から離れ田舎暮らしよ
蟬時雨稲穂の上を吹き渡る風にのりつつ命の限りと
稲刈りをしてゐる田には跳ぶ稲子ころがる田螺に戦後偲ばる
秋の夜の星座くつきりと満天の澄み極まれる紺碧の空
内藤 慶子 作品集