粟井川にそひて歩ゆめばいくたびも水がはじけぬ鯉とびはねて
右足が左足をば待ちながら階段降りるせはしき時も
わが孫は追ひつ追われつすべり台すべり降りては又かけていく
ねむれぬ夜起き出てペンを持ちながら指折りひねる五七五七七
冷えし手に缶をころがし口によせ祈るかに飲む熱きコーヒー
ひさびさに雛を飾りてはれやかに孫とつどひて菓子などつまむ
籾がらを焼きゐる煙がたなびきて暮れてゆくなり山峡の村
散歩みちにピアノのメロディーながれきてなつかしく聞く女孫を想ひて
駅伝のコスモス街道先導するオートバイクが花ゆらしゆくなり
玉葱を束ねて軒に吊りおけば青き芽長くふきだしにけり
いつからか話題は過去へとうつりゆきOB会は終りとなりぬ
山際をすれすれにバス通るなりのうぜんかずらの花ゆらしつつ
面売りの前に立ちゐる老婆あり手に取り買ふはアニメのお面
ともかくも共に今日の日迎へたり四十余年めの結婚記念日
日が沈みそぞろ歩きの道後の街人待ち顔の人力車あり
人住まぬ古き家屋の朽ちたれど木木は芽ぶきて命はぐくむ
「お受験」の意味さへ知らぬ幼児の笑顔がうかぶ眼つむれば
みぞれ降る夜半に目覚めて面長の予報士のことふと想ひだす
大観音仰ぎてひたすら子の病癒ゆるを祈る数珠ならしつつ
幼児の逆立ちすればにこにこと足の裏にも顔あるごとし
赤とんぼの幟をたてて取りたての野菜を売りゐる竜野路の町
幼児がバスから次つぎ降りてくる最后の一段みなジャンプして
朝まだきを凍てつく星星仰ぎつつ参道登る偶数土曜日
千里浜ドライブウェー走るバスはるかむかうに白き船ゆく
山の駅にいにしへの雛飾られてぼんぼりの灯に浮きたつごとし
小雨降る浦富湾の展望台地球は丸いとつくづく眺める
通夜終へてそれぞれ帰る月夜道ことば少なく散りゆく人人
萩の花こぼるる道を歩みつつ夕焼け雲にあしたを占ふ
名部 和子 作品集