つばめ群れさへづり叫び忙はし跡かたもなく朝は発たむに
雨降りて夫と二人に話題なく娘に誘はれ夕餉をよばれぬ
話したきこと多くありしに友逝きて栞りはさみしその蔵書受く
次次と花芽をつける春野菜孫は大学へと東へ向かふ
北遠く那岐の御山の雪白く今年も明けたり平和願ひつ
赤きトマトのまろまろとあり夏休みに遠きよりくる孫に合わせて
雨蛙ブロッコリーの葉の上より私を見つめる朝な夕なに
わが夫が絵に描かむと待ちをればシャッターを切る水車小屋見出でて
九十五歳のわが母の待つ里を訪ふ臘梅持ちて心急ぎて
たんぽぽとほつこり芽ぶきしふきのたう友と連れ立つ能登香の里に
撫でやればうす目をあける母を見て昔話す足をさすりつつ
父逝きて想ひでのみが残されて庭木の下にじつと動けず
新聞をその日の内に読み切れず赤まる入れては次の日に越す
佐々木喜恵子 作品集