たくさんの絵本の内の動物に大きな声で挨拶する孫

バレンタインチョコを自分で買ふ夫ブランデー入りの品を選びて

初雪が降り出したよと夫の声庭の方から聞こえて来たり

落ちてくる葉の大方が茶なれども長い葉丸い葉形は様々

妻と子を引き連れたまの遠出をし渓谷見せし父今は亡し

力強く椅子を動かしよぢ登り目当ての物を?み取る孫

遅咲きのあざみの花に黒あげは止りて首をかすかに揺らす

減りて来る蛍の乱舞今一度この目で見たしカメラも持たず

今日も又なす術もなく寝床にて雨音聞きつつひと日を過ごす

大雨に打たれてさへも山つつじ赤紫の花を落とさず

造成時残しし桜今年また時を違へず咲きにけるかな

午後六時になりても未だ明るくて寒さ残れど春をば感ず

リュックサックに靴と靴下放り込み素足で渡りし冷たき小川

雨の降る音を好みて我一人ひと時過ごすか耳をそば立て

初孫にクリスマスには何遣らむと夫は聞きしよ九月初めに

雑草と一括りにされても気にとめず諦めもせず只在るがまま

人間であり続くる我はや既に五十八年飽き症なるに

ごきぶりになぜ生まれたかくはがたやかぶとむしなら愛されるのに

枕辺にて亡き父語りし雪女の哀しき性を解せし童女

実をかじり皮や芯種飾り置き秋をまるごと五感に受けをり

屋根を打つ激しき雨に過ぎし日の災禍を重ねて今もをののく

只無事に過ぎしひと日の有難さ知りての後の夜の温かさ

大切と書きかけてふとその文字の所以を思ひ筆休め居り

庭先に鳥群れ来たりて一人居の正月賑はす赤き実つつきて

福といふ文字の起源を思ひつつひとり豆撒く節分の夜

今年また時を違へず鳴き初めしうぐひすの声を存へて聞く

茅を刈り束ぬる人の身のこなしに漏らすわが息鳥翔び発てり

ぷるぷるの豆腐が語る造り手の並々ならぬ気合と汗とを

地を覆ふ緑の中に点点とつゆ草の青野苺の赤

花満ち時風や陽を受け連れ立ちて笑み交はす明日を描きて忍ぶ

白かりし雪もいつしか春草に地を譲りつつ身を汚しゆく

寒の朝窓に描きし指文字は口に出せぬ我の本心

ぼたん雪を大きく開けし我が口に受けとめし日の想ひは今も

電飾のツリーに勝るか朝光かげにきらめく露のとりどりの色

冷えぬ間に食べきることの難きかな暖房無しの部屋にて暮せば

チョコレート来ぬを嘆きしわが息子良き父となり妻に寄り添ふ

大降りの雨音聞きつつ書く便りひざに乗せし子が三十となるに

やるせなく無為なる時間の多かるにコップをコツンと鳴らしてはみつ

力込め拭けども取れぬ汚れあり模様の如く自己主張して

ぶつかつて痛くはないか窓の鳥「筋トレ」さながら繰り返し来る

雨粒が手すりのバーの下側を一列並びに伝ひ行きたり

昼日中姿を現はし堂々と庭の草食む若き鹿あり

 丘野 道子 作品集