痛く熱い「日の丈」を内に日傾けば野良に出でをり闇迫るまで

むしりし草涙か見せて何言ふや?吹く風の語るは何や

枇杷の花目立つことなく鈴なりに花なき冬を背負ひて咲くか

播州の山並みあをきにわが村の木木の黄葉真盛りとなる

震度三でも余震を脅え活断層の上なる我は立ち尽すまま

悲しみをぽつり話すを聴く我に潜めるものも和音を奏づる

山間の冷水を工面し作る米を作らぬ子孫に送るとふ友

西日差し暮るる間際の木木の影峰峰までも跨ぐ黒影

青虫となめくぢ退治に朝夕を通ひて無傷のキヤベツを撫でやる

やつと掘る筍一本目こぼれか獣家族の裾分けなるか

満開の小庭の木木に鳥語聞くに我を差し置き此方彼方へ

細細と運転もして飯も炊く脳を五体を がないでくれ

わが村は屋号にし呼ぶ習ひにて人は替はれど屋号の生きをり

零下にも椿の花は朝まだきを見せて呉るるか赤のおちよぼを

適当に愚かなりとは我なるか認知症まで追ひ来る気配に

柊の霜のする花は朝の日の凍てつく光に白さ冴えをり

てくてくと歩き来しわれに「てくてく歩こう会」の後押しありて裡にうんうんと

暗黒に狂ひし空も静もりて星の輝き点点とあり

衣類みな虫干しされたるそのあひを幼のわれは迷路と走りき

喜寿とてもいまだ途中よ平均寿命は彼方の事よ要は心よ

会へばつい腫れたの痛いの忘れるのと互ひに裡の負の花散らすか

半世紀余作りて呑み来し味噌汁をふふみて呑みぬ文化遺産とて

古里の更地の屋敷の間取りなども内井戸水の温きも浮び来

媼らは介護士と手と手をつなぎ恋ほしみなごみてしなやかに見ゆ

呼び出しつつ呼び出す程の用なるか思ひ直して受話器を戻す

バレンタインデーの「チョコ」をどうぞとさし出すにふうんと言ひて食べ終はる夫

ノーベル賞スピード受賞の山中氏「母と行けた」と口元ゆるむ

嗅ぐに鼻付く臭の銀杏を今年も洗ひてひとつ片付く

夫とわれ三つ子の魂異なれど台風来れば飯を確かむ

峡の田に遠くの湧き水引き上げて育てし稲ぞその飯噛みしむ

遅かれど学ぶと決めし歌なるに推敲するにもさからふ耳鳴り

しばしばを姑は来てほつこりと半日話しき今はわれがす

平等なる世話のかひなく茄子一本三回植ゑて小花の咲きたり

赤実だに冬越し乞ひて「鳥きらい」三つも吊せど赤なき睦月

出番のなき「携帯」持ちて経つばかり充電するも揺るる心か

裸木の木群を縫ひて走り行く上弦の月よ何をし急ぐ

山合ひのカーブミラーに映りゐる那智の滝かと見まがふ白雲

夕焼けに燃ゆるまつ赤は菩提山の漆黒ひろごる峰にていやます

伸びもせず忘れてをりし葉ぼたんが赤を濃くして凛としてゐる

「蹄鉄屋の弥生ちゃん」を尋ねしがその屋号さへ知る人ぞなき

咄嗟にも口吹く辛きししたうが脳天走るあまりの辛さに

杖をつき日毎坂道を通ひ来て「勝たにやいけん」と言ひ呉るる姉

整地なしグラウンドゴルフを始めたる夫は不死身か八十三歳

海抜は四百米のわが里の空を一戸の鯉のぼり泳ぐ

「もしもし」が余談話で果てのなし暇が許すか解けゆくしこり

「冬型の気圧配置に似し皺」と原氏の歌にはたと手を見つ

海抜三百余米に丸き石数多ものぞくわが大聖寺むら

凍てし夜に遅くなつたと先づ詫びて宅配便の人そそくさと消ゆ

臥ししまに茂りに茂りし雑草を取れどもすでに実は弾けをり

愚痴こぼすわれを聞かむと晶子さんはわたしの船に乗つたんだよと

狗ノ尾の山に植ゑられし五輪ほどの黄蓮華升麻を友と指に追ふ

降る雨にやはき緑の西瓜の芽うぶ毛を上向け早も伸び来ぬ

山すべてをレース模様に覆ふ霜が桃色反すか朝日をうけて

元朝を庭の寒菊積む雪になほ立ちて見す紅いや増すを

「ありがとう」とメール出来ないのもまあいいかだらだら書いて半日浸る

杖ともなり相方ともなりし老い犬に我の薬を「四か一」遣りぬ

下池の「水落し」の鯉を捕りし日に父は復員しき毛布背負ひて

いつからか互ひのトーンが変つてゐた炊きたての飯のやはらかさに似て

六十余年を目守りてもらひしにもう少し生きて欲しかったと父に言ふ盆会

抜けたる空とどつぷり緑の山峡に草刈る轟音を放ちゐる我

「核」と聞き心抉らるる思ひぞするケロイドの友の顔は忘れじ

葉がくれを紅に染めつつまろみゐる初子懐はす牡丹の蕾

金襴の帯を飾りて雛懐ひ「明かりをつけませう」と鼻歌うたふ

寒き夜よ「ねんね」と声かけ老い犬に布団を掛けやる仕舞ひの仕事に

南向く丸き背中は窓越しにむさぼられしか太陽のみに

聞こえねばのり出す体弾む声サロン仲間のまろき顔顔

日生より嫁ぎて来たる友なればいく度呉れしか山ほどの牡蠣

年を経り小女房我の縮みゐて乙子の弟の背の高きが自慢

そのままに着られる服など無き哀れ解きて直すも我の秘め事

半日をちよつとおしやれし婦人会の永き歴史を閉づる宴よ

真つ白く折たる紙にのる餅を神に供ふれば格上がり見ゆ

菊の香の瑞宝双光章「ほめて伸ばす横山猛先生」の受章を寿ぐ

捨てことば吐きて去りしに早も来て「大地震」を言ふ早技の夫

後山より流るる水を集め来てその山映す吉野の川は

峡の道登れず返すを繰り返す凍てつく真夜にライトが二つ

久久に畦に積もりし雪の上を歩いて来たり凍てし道よけ

祖母作りし目に汚らしきひしほ味噌その年迎へて我も作りをり

凍てし夜に留め水吸みて灯を消すも二人居なれば話もありぬ

山すべてをレース模様に覆ふ霜が桃色反すか朝日をうけて

元朝を庭の寒菊積む雪になほ立ちて見す紅いや増すを

「ありがとう」とメール出来ないのもまあいいかだらだら書いて半日浸る

杖ともなり相方ともなりし老い犬に我の薬を「四か一」遣りぬ

下池の「水落し」の鯉を捕りし日に父は復員しき毛布背負ひて

いつからか互ひのトーンが変つてゐた炊きたての飯のやはらかさに似て

六十余年を目守りてもらひしにもう少し生きて欲しかったと父に言ふ盆会

抜けたる空とどつぷり緑の山峡に草刈る轟音を放ちゐる我

「核」と聞き心抉らるる思ひぞするケロイドの友の顔は忘れじ

葉がくれを紅に染めつつまろみゐる初子懐はす牡丹の蕾

金襴の帯を飾りて雛懐ひ「明かりをつけませう」と鼻歌うたふ

糠漬けの昔の味の恋ひしくて白菜十株漬けむと思ふ

投函するに車で十五分近道を歩くもいいか一時間を行く

裸木の木群を縫ひて走り行く上弦の月よ何をし急ぐ

寒き夜よ「ねんね」と声かけ老い犬に布団を掛けやる仕舞ひの仕事に

南向く丸き背中は窓越しにむさぼられしか太陽のみに

緑田も護岸も住み家も刳り抜き狂へる豪雨は阿修羅の如し

「核」と聞けば頭をよぎるか引き攣りし疎開の友の「ケロイド」の顔

わが裡の生生しきが発酵し匂ひを滲ませ癒し呉れむか

六十余年ハンドル握りて走りしが乗せてもらへば酔ふとふてる夫

衝立にわが歌書きて密かにも胸に温もり覚えてをりぬ

待つたなしで返事の出来る「ケイタイ」を置いて暮すも我の性分

新品を買ひてはみるが繕ひに繕ひ重ぬる戦時の育ち

薄紅に染む鈴生りの小梅の実産毛を見せて囀りゐるがに

一線引きて思ひのままに生きたきを耳鳴り鳴り立て夜毎攻め来る

唯一つ永久に残さむ趣味の歌碑自筆といへども百姓の手ぞ

生きて来て今の時間と睦みたい本当の自分を探してみたい

繕ひは戦後のエコよと話すうち姉もわれもが娘と化りぬ

南天を土間に床にと生け置きぬ赤実と共に冬越したきに

ふる里の道も住処も変はれるに那岐は変はらじ穏しき山よ

当然の箸もて食ぶる夫の所作八十路の今は感謝に感謝

数あると聞きゐし親族うからのその世代変はりて里の父も逝きたり

ちろちろと幾年漉されしや岩清水新たなる年の水と含みぬ

うだつの町に呼び込み売りの麦だんご歯に付くあたりに戦後の記憶

信楽の狸の絵付けの難しさ目のみ入るるもをかしと思へば

二十まで弁当作りて貰ひしに今の子等はと我は笑へず

大聖寺蓮花寺南海八塔寺か雲より出でゐるしののめの峰

手間かけし真赤きトマトを捥ぐ時は真昼の灼熱忘れてゐたり

耳鳴りの騒騒しき音消えうせて遠来の友と話弾みぬ

草引くに照りつくる日射しを庭木木の柔き若葉が千切りて呉れぬ

二つ三つ小島を浮かす如くにも播磨の入江と霧海湧き来る

叔母の言ふ「一人は一人よ」その息の重さに凍みゆく夜のしじまよ

土手の端の犬と散歩の長き影砂漠の民かと一瞬たぢろぐ

すすき野の大師の道を日を浴びて睦月二日をめぐりて穏し

聳えゐる銀山高く住み居しか数多の石垣苔むしをりぬ

山並を浮べる播磨の雲海よ美作の国ここ大聖寺

古希を生き静かに逝きし隆ちやんのかよわき性の来し方よぎる

除草剤蒔きしか知らねど庭草に真水浴びせつつ生きろと詫びる

テレビつ子ににはか仕立ての縄電車椎の実狩りにと発車オーライ

秋霊のはやも来しかや赤茄子は青きままにて固きままにて

一人居や臥す人尋ね総点呼豪雨がなした孤立の村を

蝉の声木の間の闇にひくく沁み山は刳られ道は断たれて

坂道の轍を流るる石清水川に添ひては瀬音と共に

ここだけは匙を投げられぬ野菜畑蚯蚓よお前は大事な味方よ

しづく置く楓の万葉に朝日さし煌めく妖しき星と化りたり

誇るがにひねもす咲きゐし桜花月光白みて淡あは眠るや

老い犬の耳遠くなり生ふる毛も枯色いや増す歳経る我も

睦月四日今日はわが日と思ひ決めミシンを踏みて為止しを急ぐ

朝の道夕べの道にも立つ鹿よ人恋ふるがに道を塞ぎて

連日の果てなきわれのたはごとを従兄弟の伯母は聞きくれましぬ

此処いらか山の駅辺の茂る山大根作りし大焼畑は

手話まじへ会話をしをれば男の孫にハワイの人がガリバーに見ゆ

めぐり来し終戦記念日にまた思ふ自然秔飯を食みしことなど

畑物を獣に食はれ懲りつつもこれなら良しと又網を張る

若葉青葉白花百花にチチチチと鳥は群がりタンゴ踊るか

裸木の芽吹きの未だ固きをり辛夷群れ咲く播磨の山よ

凍てしるき霜溶けゆきて明るさをいや増し誇る数多の葉牡丹

道の辺にかろくまろびて毬栗のみどりふはふはまりもに似たり

うちすてて知らぬがままの庭の木に名札を下げてしばし見入れる

新客のごとき従姉がいつしらに旧知の如く積もるを語る

手話まじへ会話をしをれば男の孫にハワイの人がガリバーに見ゆ

車窓より心地よき風ガソリンの値上がりせしが頭をよぎれど

木木の葉の緑の濃さもとりどりに個性を見せつつ山を飾るも

検査終へ震へる五体に胃のモニター見たる瞬間両肩ゆるむ

「もう一度だけ元気になろうな」と言ふ夫に涙ばかりが流れて止まず

真つ白く折りたる紙にのる餅を神に供ふれば格上がり見ゆ

わが影を長なが伸ばすか西空へ冴えゐる月の神秘なる技

菊の葉の瑞宝双光章「ほめて伸ばす横山猛先生」の受章を寿ぐ

この春も虫の餌食の雑事畑祭りの供者は干し大根か

各各に受話器の向うとはづみをり老い夫とわれの笑ひ声大きく

「朗らかになって長生きの競走しようよ」九十の伯父のワープロの便り

濃緑の桜葉照りて茂るなか黄味付くひと葉秋を予告す

秋の来てわたしの好きな影の丈その瞬間をポーズしてみる

もみぢ葉の舞ひて舞ひ行き集まりて住み処となるか霧こむる谷

幾年経て滴る水か岩清水福水として六腑に頂く

目交の浅木の山の猪狩りか肋骨劈二発の銃声

丸太焚き村の祭りの牡丹鍋山と刻みし猪肉入れて

二歳の姪絵本を読むとかしこまりおちょぼの口をまめに動かす

住みつぎていと清かなるわが村を無言で襲ふ黄砂の猛威よ

薬液の継ぎ足されては来し朝よ止まることもなく落つる点滴

梅雨の間も夏にてあれど冷気刺し病む身の内に風邪入れ来るか

長雨に清しき白の浮き立ちてもてなし呉るる十薬の花

長雨の暗鬱の宙に点をなす逆さの蜘蛛は動かざるまま

ひと枝の終の証かその枝の命の樹液にぶくふくらむ

半世紀越しかやわれの一人旅切符買ふにもときめきをりぬ

新聞を夜毎読みくれし幼日の声すると父は言ひて逝きにき

右利きの我に不思議よ一回転して確むる耳左聞きなり

「アワユキヒルガオ」と名付けられたる帰化の花中国からの親善なるか

ふるさとを賞むる言葉のうれしかり「まるごとビンに詰めて帰りたい」

新世紀平和であれと祈りしが憎み憎しみ狂へる命

又しても水道管の凍結につるべ繰りたる井戸の湯気懐う

万歩計とリュックを背なに出番です達者がくれたみどりの日です

工廠より持ち帰りし食器一つ父亡き今も厨に置かる

物忘れは数多の病のその外と我のうかつを声高に言ふ夫

連日に二機を駆使して草刈し夕餉の箸の震へ止まらず

友達の送り呉れたる葡萄なり目によいと聞き皮ごとほほばる

「人が来た」幼の我は母呼びき軍服姿の父とも知らず

節くれて指抜き通らぬ我が指に亡き母の優しき手が重なりてきぬ

温暖化環境破壊省エネを斧振り降しつつ木の精に聞かむ

日だまりに枯葉もたぐるふきのたう衣を付けて御節にせむか

白内障の手術に立ち合へると聞かさるれど気持確かに見極めるるや

裸木に大粒雫鈴なりに銀色放ちて万華の宇宙か

いつしかに山並み消えて村も消え霧海の底に一人耕やす

逝きにし母と時空を超えて睦めるに現に返るか耳鳴り激しく

露うけて陽に輝ける庭草よ薄紫よ病み臥す我よ

われら二人を交互に襲ふ病魔なり一気に燃え咲け曼珠沙華の花

時雨止み光を返すもみぢ葉に静かに生るる雫紅かり

全緑の木木の生む精吹かれ来て我の臓腑に呑まれゆくなり

病みをれば庭草ひきも手間取るに茂みの小花をしまし観て居り

身の上を友と語るや久久に限らるる時を昼餉も抜きて

墨色の峰を越え来る月の冴え家路を急ぎ峡行く我に

裸木の枝凛として硬き芽の鋭く見えつつ矢を射るごとし

この星の屠蘇酌まぬ民酌む民も安けきひと日のあれと祈るも

久久にばったり出会ひて道の辺に友と話すも三時間余を

わが出しし父への葉書新盆に灯明あげて読みてあげたし

退院の日医師は心の病み知りて「ふた粒転び代も入れとくね」と言ふ

会へばつい腫れたの痛いの忘れるのと互ひに裡の負の花散らすか

喜寿とてもいまだ途中よ平均寿命は彼方の事よ要は心よ

なにゆゑか那岐のはら野に休むたびほぐるる裡よ亡き父母浮かびて

悪寒のすインフルエンザか風邪なるか熱三十八度今日大安を

天地返しせし菜園場に一匹の虫も見えざり啓蟄前にて

冬枯れの黒文字の香に父浮ぶその煎じ汁に踏抜き癒やしき

下見せし時より村は近くあり大空の下の緑の園よ

つゆ光り庭のさ緑冴えにつつ紅映ゆるもみぢと織りなす

夕立ちと言ひし子供の頃ありき今は竜巻きと集中豪雨ぞ

生垣の下辺にのぞく鬼灯に陽は射しをれど涼しげなりけり

美作の鹿鳴く山の頂きの庵のくらしはつましく穏しも

夏咲きしひまはり更にあまた咲き小花の黄が秋空に映ゆ

 新免 三代 作品集