小川なれどコンクリートにて囲まれてどぢやうもふなも居なくなりたり
「ユニクロ」で固めた装ひお洒落にはほど遠いけど寒さ知らずよ
早々と咲く水仙の傍には名残りのコスモスまだ花着けをり
畑の上を気儘に舞ひ飛ぶ紋黄蝶私のキヤベツを食べしはお前か
同級の友等は皆猶勢ひのありて趣味など生き生き語る
行楽に行く日は弾むこの道も歯科医通ひの時は憂鬱
獣害から芸能スポーツ政治までおばさん会議は話題広がる
子も孫も無く独り居で備へ無し成り行き任せの日々過ごしをり
ひなあられ柏餅をも食べぬまま早もう今年が半分終はる
「JA」の新人紹介のアンケートは「好きな野菜は」の一項目のみ
梅もまだ散らぬと言ふに花開く金澤医院の色濃き桜
花の色葉の色さへも見えさうなモノクロトーンの水墨画の妙
昨日今日一日変はつただけなのに薄物着れば一気に春めく
解説の欲しい新聞の時事川柳次第に時代に取り残されゆく
寒いのは辛いけれどもこの時季に春の陽気は歓迎できない
マイナンバー実施の前にもう詐欺をする輩居て掛かる人有り
こんなにも石ころだらけの荒れ畑に蒔きし大根は育つのだらうか
自分のことを「ぼく」と言ひゐし兄の孫いつの間にやら「俺」と言ひをり
ラジオ体操をする地域なども次第に減り昭和は遠く遠くなりたり
それぞれに種類の異なる犬連れし媼が二人峠を越え行く
水仙の掛け軸そろそろはづさねばと思ひながらに弥生も五日目
郷路山に霞の帯のたなびきて風やはらかき立春の朝
天気図の雪だるまマークは余所事と眺めし朝に初雪の舞ふ
我が家から見える「郷路」は三輪山を小さくしたやうな形良い山
新年も七日となりて兵庫駅は「十日戎」の幟はためく
淡く濃く明るく深くもりもりといま萌え上がる山の緑は
亡き母のあざみの帯締め我は来ぬ共に学ばむ短歌教室
里山に広がる淡き紫陽花をやさしく濡らす七夕の雨
洗面所の窓を開ければ大輪の隣家の朝顔塀越しに見ゆ
二十日前に植ゑし木槿は根付きしか新しき蕾三つ付けたり
草茂り彩り乏しき荒れ庭に季節外れの山吹一輪
留守の間の喪中の葉書四枚に束の間吹き飛ぶ旅の楽しさ
「バレンタイン」の桜のトンネル通り抜ける一人のぜいたくスピードを落として
幼い葉はかはいいハートの草だけどあなたは?草私は抜くは
ゆすらうめ口に含めば「カンけり」や「かくれんぼ」した日々思ひ出す
植ゑ替へて小さくなりし梔子が今年漸く一輪咲きたり
虫喰ひの大穴だらけの葉つぱでも千切ればしつかり大葉の香りす
入り乱れ競ひてのぶる草叢の青紫蘇のみを虫は喰ひをり
窓といふ全ての窓を開け放ち招き入れたい秋麗の風
荒畑によいしよと鍬を下ろす時ブラジル移民のことなど思ふ
正面の「ごうろ山」はも霧の中ひたひたひたと冬近づきぬ
郷路山に霞の帯のたなびきて風やはらかき立春の朝
水仙の掛け軸そろそろはづさねばと思ひながらに弥生も五日目
それぞれに種類の異なる犬連れし媼が二人峠を越え行く
真向ひの「ごうろう山」におはやうと言うて始まる私の一日
盆栽の梅の木己の意志でなく主の思ひのままに剪られぬ
自分のことを「ぼく」と言ひゐし兄の孫いつの間にやら「俺」と言ひをり
こんなにも石ころだらけの荒れ畑に蒔きし大根は育つのだらうか
贈られし父も贈りし兄も亡し米壽記念の「双鶴」の軸
鶯と競つて鳴くのは何の鳥お前もなかなか歌がうまいね
巣作りに田植ゑがすんでとりかかる燕よ巣立ちは間に合ふのだらうか
蕎麦好きの私ゆゑに「麦藁」の漢字を見ればつい「そば」と読む
七日間お日さまマークの連続で老婆の干物が出来上がりさう
八月の終はりに柿は色づき初む異常気象の為せる業かや
花も葉も散り落ちしまま朽ち果てて我が家の箒は新しきまま
マイナンバー実施の前にもう詐欺をする輩居て掛かる人有り
末宗 玲子 作品集