待ち待ちし喜びの声ぞ曾孫れ受話器の向うに聞こゆる泣き声

雨水すぎ春の訪れ感ずれど中国山地は雪を冠れり

「銀杏芋」のつる枯れをれば根をさぐり目印付けおく春来ば掘らむと

我が村の守り本尊観世音大名さへも前を歩きし

酒宴すれば戦友の事懐ふなり酔へば楽しくフラダンス踊りき

耳遠く毎月一度の常会に必要事項を聞き漏したり

甲子園球児の応援に力みすぎ声高になりて妻に窘らる

此の夏は酷暑続きで会ふごとに暑いですねと挨拶がはり

久里浜の「電測校」の甲板掃除前へ押せ押せの怒声に追はれき

昨夕も畑に出しか親子鹿何処に行きしや足跡たどる

震災の震源地なる野島にてM七の体感を我らはしたり

老い故かゆるゆるとする農作業「ミニトラ」起耕は苦しかりけり

休耕地を猪鹿が蹂躙する足あと見つめつ如何にすべきか

宵の空くまなく晴れてきらきらと航空灯が南へ移動す

コンバインを暫し休めて手を止むれば蕎麦蒔とんぼが乱舞してをり

早朝の単車の音で目を覚ます新聞配達御苦労様です

「櫂用意」の号令かかり勇む士気海軍通信学校のカッター競技

永年を苦労し作りし水田も洪水防ぐ堤防と化す

この我は二度とは見られぬ金環食黒ガラス手に太陽のぞく

母の手に子供が呉れし胡蝶蘭寒さに弱しと保温をしをり

散歩する道路に映る我が影に元気を出せと励ましをりぬ

山家川の川底けづる重機音魚巣もつぶれ魚今何処に

夏草の繁茂旺盛それを刈り休みてあればひぐらしの声

山路行く落葉の音のかさかさと我が足音に振り返りて見る

初詣で足下悪き妻なれば後よりゆるりと従いてゆく我

散歩する吾に飼猫ついて来て抱けよ抱けよと足にまつはる

栗山に猪鹿の跡ありて屎尿の異臭辺りにただよふ

山間に望める中国連峰よ雪を冠りて煙れる裾野

遠近の除夜の鐘聞く我が家に子孫の声は一際はづむ

楽しみに栗の木接ぎしにその新芽食われてしまひぬ鹿の奴めに

秋来たり今宵の月は十三夜我が家の居間を鈍く照らして

里山を我がもの顔に駆け巡り猪鹿は我が田も荒す

原爆忌広島長崎ああ無残被爆者語らねど伝へよ後世に

誰が飼ふや未だうす暗き朝方を刻告ぐるがに叫ぶ雄鶏

我が畑に白きみかんの花が咲き香り立つれば蜜求めくる蜂

和気藤野全国の藤集めゐて白紫と房咲き分けをり

彼岸会に姿を見せしつばくろが巣作り始めて賑やかとなる

雑木木の色深まりて窓ごしにしぶ柿赤し寒さも増して

コスモスの花咲き揃ふ迷路あり子供の笑顔が大きくはじけて

葛城古道今日おとづれて見る古跡万葉人の足と合ふかも

道流され行けざる田圃に稲穂のみ穂首垂るるもすべなき老い我

山百合の草木の中に顔お出し香りと共に楚楚として咲く

終戦日六十四年巡り来て平和えの鐘世界にひびけ

梅雨空に紫陽花の花咲き揃ひ曇る気分も晴晴とする

米作りに今年も作る電機柵人と獣と知恵を競ひあひ

新緑の萌えいづるなかに山つづじ色あざやかにあたりを染めたり

市長市議の候補者たちの奮闘に選ぶ我らも真剣になる

大豪雨に流れ激しく山城の下橋のてすりも曲りて垂れをり

朝光に山の樹氷のきらきらと輝きまして寒さは厳し

 松本 哲夫 作品集