をかしいなこんなはずではなかつたに大事に育てた手足も動かず
太陽に恋することの遠くなり人恋しかり紅葉山見る
推理力と瞬発力に勝ち目なし車内の空き席若さが奪ふ
バイオリンの演奏よりも気になれば「彼は何歳」と隣席の声
枯れ色に桃色加へしキャンバスは元気になりをり還暦の自画像
幼少より才色兼備の友も今吾と同じく六十路は近し
美作市と我が申せば直ぐに説く「湯郷の宮間」を神戸の人等は
ふりふりのドレスを装ひし七十路らはランチに集ふ初夏のレストラン
愛でなく義務でもなくて諦めと老妻は言ふ介護をしつつ
隣席の並の乙女の細き指マスカラ持ちて「アキバ」に仕上ぐ
秋月は二股ソケットを照らしをり夕餉のふたり何語りゐむ
「優さんは早くいい人見つけて」と妻に遺しぬ三十歳の無念
近江越え金箔の里を訪ぬれば長政想いて金粉茶飲めず
夜遅く帰りし我をふりむきて動じぬ狐は雌だと思ふ
若き葉と絡みてゆるる紫は朝露に濡れしなやかにはげしく
皆おなじ眉を描きて少女らは異なる脚にて校門に入る
高速道のパトカーのサイレン鳴く蛙吠ゆる獣邑は眠れず
完璧なる睫毛に仕上げ笑みし娘は紅持ちて言ふ「ブッシュは解らん」
真夏日の子の姿なき校庭は町民検診の駐車場となる
ペダルこぐ白きソックス軽やかにさざんか落つる通学路を行く
艶やかな光もちたる円き月よチグリスに如何なる姿映さん
ひと日だけメジャーとなれる若なづなボールの中にやさしく洗ふ
「ミス・ツイギイ」と呼ばれし友が訪ね来ぬ三十年目はロングスカートはきて
インター造成の男等の宿の灯は消えて連休の夜を寒村暗し
ひとり居の子のマンションを訪ひたれば熟成したる果実酒二びん
ラムネの空びん転がりをりて自信なきひょろひょろ文字のしゅくだいしんがっきをまつ
たわい無いお喋りなれど娘の電話に遠く離れゆく私の予感
のび悩みし末の子の背も我を超えスローステップで春を出てゆく
「ツイギー」と呼ばれし友もうなじには五十歳を見せ今はロングスカート
原田 あいこ 作品集