日一日と植田は青くなりゆきて畠の薯もそろそろ穫らむか

テレビの上の嫁ぎし孫の縫ひ包何時も我等を見守りをるなり

老いゆゑに荒れし花壇も春来ればすみれたんぽぽ踊子草よ

我が家の庭の片隅に芽吹き居り絶滅危惧種吾亦香なり

今晩はと裏口よりの来客に時を忘れて話弾めり

市役所に夫に付き来て外で待つ車窓に見ゆる春雨やさし

孫達も去にたる今日は日本晴れ布団干したり障子開けたり

誰が為に植林するや八十路来て桧の苗木を注文する夫

誘はれてお寺参りに夫行きぬ一人留守居の春の日永し

主なき庭の片隅去年よりも勝りて咲きたる古木の桜

店先のかはゆい緋目高気になりて又買ひて来ぬ水草も添へ

その夫の逝きて二日め外に出て庭の草引く媼の背中

雷鳴に追はれて帰りてわが在れば春日の杜に幕を引くごとき雨

大豆畑に夜な夜な鹿の現れて防禦のネットも役に立たざり

昼さがりおい行かないかと誘はれて着いた処は寅ちゃん田圃

旅せし夫帰宅は八時と聞き居れどひと時前より明り付けて待つ

台風に荒らされたりし檜山孫と三人でから松植ゑ居り

「おばあちゃんじゃあ行くからネ」と片笑窪いつもと変らぬ孫を見送る

箱並べ自産の品を詰め合はす帰れぬ孫にとお年玉も添へ

雨の中を見舞に行きて吠えられて夫に駈け寄る傘を放り投げ

しとど降りし雨止みたるや夜の田にクワクワクワッと忙しき蛙

台風の予報に取り込む菊の鉢腰を反らせて残りを数ふ

春一番早も吹き来て舞ひ上がる小鳥か枯葉か果樹園の中

小豆島めぐらんと買ひし白い靴今年も叶はず下駄箱の隅

田植済み小溝に入れば流れ来る白き花びら諸手で掬ふ

居座りし台風の余波やっと去り春日の森に今宵は満月

転作の小豆むしりもやつと済み腰を伸ばせば青空広し

テレビにて高校入試の時を知るふと想い出すは何時か来た道

母の前を小走りに行くランドセル背負う児が潤みてみゆる我が眼か

桜桃ネットで囲ひ熟れたれど小鳥も取り得ず吾も取り得ず

涼しきうち茄子や胡瓜に水をやる墓参の姉妹に託けたくて

嫁幸子の案じてくるるを読み終へて黙って見上げる高き青空

エプロンのポケット振へばヒラヒラと何時かメモせし短歌のはしくれ

土居山の吹く風涼しく菩提寺に仏具磨くや御詠歌の連れと

接ぎはぎの絣のもんぺ憶ひつつ昔の杵柄パッチワークす

帰省せぬ孫等の顔のよぎりをり餅数へゐる厨広きに

三度通ひ残り火消えしを確かめて拍手を打つ春日神社に

幼らの手より放れし風船は故郷まつりの便りを乗せて

丹精を込めゐる畑に今朝もまた縦横無尽のトンネル工事

戴きしピオーネ一粒口にして夫婦で葡萄を作るを言ひみる

伝言板に「向うの畑へ」と記しおく梅雨の晴間のひと時惜しみて

背の高き孫ちらちらと我見つつ母と内緒す良き事有りげに

鎮守の森に何を造るかがたごとと重機の音す秋祭近きに

宅配便家かと思ひ顔出せば門札だけ見てすぐ行きにけり

さつま芋やカボチャと共に囲はんとジャガ芋の芽をかぐ日向ぼこしながら

炬燵にて本読み居れば夫の来てみかん半分皮むきてくれぬ

立春を過ぎて未だ降るぼたん雪カタログ開きて夏の花の夢

 名部 方子 作品集