任地へと戻り行く子の後ろ髪細りてをりぬ夫似にあらで
戯れ言の一つも言にぬ夫なれど一度聞きたし七十路のわれは
手の甲の無気味に浮きし血管の労ねぎらふがに指になぞるも
作業着の裾に付きたる草の実をむしりつつ聞く友の嘆きを
逞しく成長したる孫とゐて一日の絆いとほしみつつ
遠からずわが老い深むる日もあらむに病む叔母見舞ふ和菓子携へ
小声にて子守唄など口ずさみ娘が残せしセータほどく
過ぎ去りし時の重さを戴きぬ喜寿の祝ひを賜びたる我は
手毬つき競いし友は世に在らじ広き庭なる家跡に立つ
ある時は切って捨てたきこの脛を今宵の湯舟になだめてをりぬ
鈴木 秀子 作品集