ほのかなる温み残せる骨壺よ小さくなりし夫を抱くも

葱ばうず皆それぞれに背伸びして五月の空を押し上げてゐる

鶴山の登りに垂るる薄紅のしだれ桜よ風になびくも

庭すみにはやばやと咲く福寿草蝋梅春もここまで来たれり

あぜ道を歩きまはりて摘みし日は遠くになりて七草を買ふ

柿の木に甘き柿の実熟しゐて鵯めじろ飛びきてつつく

杖つきて日々遊歩道を行きゆきて出合へる人とかはす挨拶

夕陽射す岸辺の工事の起重機が角度を変へて向かう岸へ行く

蜩の声も絶えたる山畑の岸に赤赤と彼岸花咲く

残暑いまだ厳しき中に稲を刈る農機具の音あちこちに響く

靴下の穴より覗く親指がしきりに我を侮りてゐる

古里の吉野の川に飛ぶ蛍追ひつつ昔に帰りゆく我

霜と雪の寒さに耐へつつ庭先に臘梅膨らむ二つ三つ四つ

夕映えの射しこむ部屋に坐りざま我は短歌を思ひつきたり

初日受け雪の結晶きらきらと乱反射するをさくさくと踏む

春を待つ畑に石灰まきをれば散りて真白し雪模様のごと

赤あづきぽつりぽつりと毟りゆく庭の日だまりに足をひきつつ

夕映えの射しこむ部屋に坐りざま我は短歌を思ひつきたり

盆踊り太鼓のひびく輪の外に久しき友との話は尽きず

雨晴れて柿の青葉のくもの巣に熊蝉かかりてもがき苦しむ

雨やみて田の上を舞ふ白鷺が二羽添ひ飛びて曲線をなす

病室の窓より受けてみたくなる桜はらはら吹雪のやうで

晴れわたる空のふかみに点となり飛びゆく鳥の孤独をみまもる

蕗の薹土筆のびゆく散歩道桜もちらほら三分咲きたり

山茶花の紅花色の雪解けて冬の陽差しにきらりと光る

健康が一番だねと夫の言ひ今年も共に初日を拝む

宮そうぢに落葉を積みて火をつければ炎はのぼり銀杏はじけぬ

草刈機を響かせダムの草刈れば水面を飛び立つ鴨の二三羽

豪雨にて佐用の山はだ崩れ落ち道路をふさぎ田は石の山

ゴーヤーの蔓高く伸びをり屈む腰やつと伸ばして四・五本取りぬ

畑草を抜きゐる吾の前に来てちよつこんと座る青蛙の子

夕映えの射しこむ部屋に坐りざま我は短歌を思ひつきたり

初日受け雪の結晶きらきらと乱反射するをさくさくと踏む

春を待つ畑に石灰まきをれば散りて真白し雪模様のごと

赤あづきぽつりぽつりと毟りゆく庭の日だまりに足をひきつつ

夕映えの射しこむ部屋に坐りざま我は短歌を思ひつきたり

盆踊り太鼓のひびく輪の外に久しき友との話は尽きず

雨晴れて柿の青葉のくもの巣に熊蝉かかりてもがき苦しむ

雨やみて田の上を舞ふ白鷺が二羽添ひ飛びて曲線をなす

病室の窓より受けてみたくなる桜はらはら吹雪のやうで

晴れわたる空のふかみに点となり飛びゆく鳥の孤独をみまもる

蕗の薹土筆のびゆく散歩道桜もちらほら三分咲きたり

山茶花の紅花色の雪解けて冬の陽差しにきらりと光る

健康が一番だねと夫の言ひ今年も共に初日を拝む

宮そうぢに落葉を積みて火をつければ炎はのぼり銀杏はじけぬ

猪よけの囲ひの続く山峡ひの青田に一羽白鷺まひくる

雨蛙わが庭を去り花多き向ひの庭より声をひびかす

さざ波のきらきら光る瀬戸内海遥か彼方に船の行く見ゆ

ブロッコリーの葉裏にひそむ青虫を目をこらし捕る朝の仕事と

雨あとの落葉だまりの濡れ落葉滅びの色の冴え冴えとして

石段をためらひ登る吾に寄り手を差し延べてくるる夫よ

山峡に雪は残れど落葉掻く熊手に転ぶは芽吹くどんぐり

茶椀蒸しせむかと皮剥ぐ銀杏のうす皮破れて緑が光る

玉葱の三百本を植ゑ終へぬ腰の痛みに耐へつつ我は

釣り上げしちぬの大物持ち帰り夫は夕餉の刺身にするかと

恋人の愛の泉の小路通り桜紅葉の舞ひつつ散りゆく

秋風を背にして草引く畑隅に赤赤咲くか曼珠沙華の花

吹く風に秋を思はす夕暮れは色づき初めたる稲の穂波よ

夜な夜なをカボチャ畑に猪が出で今日も食ひしか三つ四つあらず

地下足袋が一番好きと言ふ夫の日焼けし顔が今日も明るし

小雨止み雲間をもるる陽を受けて柿の若葉の艶増し来たりぬ

わが母校閉校式よ校旗返納蛍の光にみな涙ぐむ

肌寒く寝付けぬ夜更け外見れば雪深ぶかと降り積もりゆく

南天の赤き実啄む鵯の羽根を濡らして霙降りゆく

腕時計音なく針が廻りゐて「点滴」の滴静かに落ちゆく

痛む腰伸ばして今日も畑打てば蛙は飛びだし転びて逃ぐるか

秋風が水面に吹き敷く病葉を掻き分けにつつ鯉浮びくる

刈り終へし村の田圃に白鷺が二羽降り立ちて落穂をつつく

納涼の川辺の桟敷の鮎づくし観光花火も色どりそへて

右隣の無人屋敷の庭先に梅雨をひっそり紫陽花咲きをり

山裾の小川にかかる橋ゆけば流れにそひて山女魚も泳ぐ

山畑に芋蔓を挿す夕暮れに我の背後を鹿が駆け行く

めぐりの田に菜の花れんげ咲き乱れ花に飛び交ふ蜜蜂の群

さざ波の光る吉野の川沿ひを歩めば土筆が数多出でをり

山芋を掘りて帰りし夫の背に土の匂ひの染みつきてをり

裸木の枝に蜜柑を下げやれば飛び来てついばむ目白に鵯

折鶴を折り畳みゆく両の手の傷みし指の今日の痛さよ

縁側の日向に座り柿をむく子猫も寄り来て居眠りしつつ

秋空に一直線に飛行機雲東にのびゆく東京までか

夏山に合歓咲きをりて峡の田に小豆蒔きをり夫と二人で

静かなる宵の窓辺の月明りに黄色に光りて向日葵咲きをり

俄雨に柿の葉裏に身をひそめ蝶は時どき羽広げをり

天曳きの社にひびく笛太鼓男の子が舞ふか獅子舞「道引」

軒下にオレンジ色の柿すだれ秋の日差しに甘き香の立つ

水槽に冬の水白く溢るれば昼も汚れし猫が来て呑む

雨降れば隣の庭にらふ梅の蕾膨らむ二つ三つ四つ

観音堂のぬれ縁の上の木の実一つ野生のリスが出て齧りをり

春寒に馬鈴薯植ゑむと鋤く畑に蛙飛びだし又もぐりをり

車窓より遠くに望む鶴山の桜も櫓も霞みて見ゆるか

山峡の畑に野猿が出で来たり豌豆ちぎり食ひ荒らしをり

山峡の水辺の樹の葉に卵産むもりあをがえるよ森の妖精

草を刈る夫の額にきらきらと光りてをりぬ玉なす汗が

夫の釣りし鯵を天日に干し上げて味見と出しぬ夕餉の膳に

コスモスの風にゆれ咲く川辺道万歩計と共に散歩する我

 梅本 信恵 作品集