住吉神社に参りし二人の女孫より「婚活」するよとメールが届く
■岩本 敏子
薄雪が手もとの灯りに照る道に今日一番の足跡描く
■畑田 土子
山の木の葉裏を返し白波の立つが如くに風吹き渡る
■宿野 和穂
女の孫のお色直しに手を借すに己が気付きぬ己の笑みに
■小林 洋子
ふたたびは戻れぬ世なら何はあれ百歳越えよと母の背を押す
■加百由起子
鉦叩・蟋蟀・螻蛄さそひ出し声きそはすか天の夕星
■江見眞智子
ほのかなる温み残せる骨壺よ小さくなりし夫を抱くも
■梅本 信恵
納屋の横を手押車で曲りかね転倒したれば目から火を噴く
■横山美恵子
新年の孫らと遊ぶトランプの勝ちに占ふ百までの生
■原田 順子
台風の何事もなく通り過ぐ神仏の加護か豊作祈らむ
■山下三代子
待ち待ちし喜びの声ぞ曾孫
生れ受話器の向うに聞こゆる泣き声
■松本 哲夫
妹は生前戒名貰ひしとその夫の位牌に並べる赤文字
■船曳 彩
朝光にきらめきて飛ぶ白鷺はその身を水面に写してゆきをり
■新田 千晶
日盛りの畑の日曝らしにたぢろぎて日暮れまではとうちに籠りをり
■豊田 絢子
痛く熱い「日の丈」を内に日傾けば野良に出でをり闇迫るまで
■新免 三代
そのうちに読まむと仕舞ひし本数多資源回収に出してしまへり
■黒石 初江
核武装「戦勝国」は朝鮮の「非核」共生に本腰入れてね
■加藤 芳英
娘婿の鋤きてくれにし菜園場に朝の空気を一ぱいに吸ふ
■有元理嘉子
わが為に改築なししと娘は言ふが先立つものをまづ案じをり
■黒石 貞子
我の歌から「元気を受けし」記されし未だ見ぬ女の水茎の跡
■北村 和子
こころもち伸び来し日差にひかりをり厨の床にこばしし水が
■阿部すみゑ
「柔らかい手ですね」なんて言はれつつ美容室にて半分女
■入矢 敏江
来る年も菊作らむと寄す落葉かさこそ鳴るに亡き夫の顕つ
■黒石 登代
四年経て完成したる「みのる橋」渡り初めから有難さ知るく
■船曳 文子
付け睫の長きを伏せて操るか「スマホ」の画面に無言を発して
■福島美智子
どんよりと曇れる下びにどんよりと村があるなり我らの村が
■関内 惇
西空から雪雲低く被ひきて人影一つだに見えぬわが村
■中川冨美枝
わが作りし黒豆やればお礼にと妹から来し燻製焼豚
■長澤 和江
熟成を腐欄のあはひは紙一重かびの生え来しみかんを捨つる
■日下智加枝
マラソンの映像から知る吉備路なり五重の塔に菜の花畑
■角南三津ゑ
ハムスターの墓に水仙供へやる有るか無きかの土の膨らみに
■浜田くに子
長年にわたりて使ひしパソコンも故障が起きては今日でお別れ
■内藤 慶子
わが詠むは叶はざりければ村照らす真夜の満月に名句をしのぶ
■井上さかゑ
暖かき布団に入れば仕合せと手を合せをり震災のニュースに
■安東 松代
テレビ見つつめまひをぼゆるは年ならず遠くて近き大地の大ゆれ
■名部みどり
ざわざわと時代の流れの風しみて老いてもニュースに心病む日日
■森本 久子
八十の齢を重ねて今日の日も登る坂道老の坂道
■安西 苑
泣き笑ひの六十年の歳月を共に支へし夫婦の絆
■光井 房子
粟井小に学びし子等は財産なり「ソフト」「綱引」とははばたきてゐむ
■清田美智子
久久の蒜山三山美しきジャージー牛は屋内にして
■原 幸子
朝早を友の電話のひびく声がはげましくれぬ元気をだせよと
■鳥形 節子
二月なるに小さきたんぽぽ二輪見つ土から春か風肌さすも
■野沢 老梅
春来るを華やぎてみる夢の中四季あることの不思議さにあり
■大内 佐智
短歌会にて皆と仲良く勉強し成りし短歌は努力のあかしぞ
■横林富砂子
南京に穴をあけたる鼠めよマットを仕掛けて二匹仕留める
■松井 洋子
わが庭は菩提の山を借景にもみぢたけなは悦に入りをり
■横山 昌子
嫁して五十年籠いつぱいに蕗を採り佃煮に炊けば姑の味
■釜田 玉枝
たくさんの絵本の内の動物に大きな声で挨拶する孫
■丘野 道子
ひつそりと草叢の中にどくだみの白き花咲く梅雨のはしりに
■山中みどり
忘れまいと一生懸命頑張つてそれでやうやうこの体たらく
■小林 増代
たくましくなりし子の背に問うてみる汝が内に母は活きて在るかと
■堀江 吉子
小川なれどコンクリートにて囲まれてどぢやうもふなも居なくなりたり
■末宗 玲子
七度の歩き遍路に見しものは自然の中にて暮らす人らよ
■菅原 淳
空高く村にひとつの鯉のぼり水澄む田に影映して泳げり
■井上 智
キャラメルが大好きだったおぢいちゃん「お元気ですか」と秋空に問ふ
■井上 亜紀
徒歩二分の通勤時間に柿をもらひ大根もらひて小径を帰る
■菜摘 葉
この冬は寒い寒いと籠りゐて庭の花木に目もくれざりし
■森本かよ子
お帰りと言ふより早くかけて出る「太陽」「ソレイユ」「サン」とも呼べる子
■森 佳奈
日記をばその日に書かず明くる日に心して書く一法もあり
■安室 舜海
いつまでも長生き出来ると思ひゐてルーツを求むる時のなかりき
■鈴木 正志
すこしだけおしやれして行く短歌の会恩師の叙勲言祝ぐ今日を
■横山すみ子
縮みといふ布にも似たる吾が腕静脈浮き出てしわしわとなりて
■内海美和子
任地へと戻り行く子の後ろ髪細りてをりぬ夫似にあらで
■鈴木 秀子
補聴器を試さむものと思へどもこれがなかなか何げなくが難し
■上屋敷はつ
回覧板まはす夕べに見つけし子宿題のことなど頭をよぎる
■林 さくら
正論も無視さるる世にと変りしか水掛論となる果ての空しさ
■渡辺 信子
捨て置きし花壇に花花芽を出しぬあをき命に詫びゐる吾か
■木曽 道江
手術して己が身より取り出されしペースメーカーに感謝を捧ぐ
■国上 亀治
百人一首の百の記憶のいまだあれど取るはかならず子らと競いてく迫り来
■林 みち
がうがうと暗渠に音を響かせて溝ぶた越すがにくる田植水
■坂井はつ子
庭先の小枝の雪がほほに落ち膝の辺りに寒気増し来る
■橋本 巴子
行きつけし小料理店の雰囲気の恋しと友の文に書きあり
■安本サヨ子
四苦八苦なほ「インフル」も加はりて重くて飛べぬか日本航空
■新免 初子
わが町をゴーストタウンと人はいふ大型店に潰されをりて
■新井 和代
をかしいなこんなはずではなかつたに大事に育てた手足も動かず
■原田あいこ
玉砕せし「マキン・タラワ島」の戦歴を語りゐし夫よ今日は敗戦の日
■江見 冴
手の甲に浮かびているはしわくちゃよ過ぎゆく日々の年輪のごと
■荒尾登志ゑ
飢饉には食せしとかやしびれの根今その花が岸を彩る
■岡田 利子
家の中話して見るも誰も居ず夫と語るのもわが胸の内
■藤本 伸子
ひらひらと舞ひ来る雪の音もなく時折り高きひよどりの声
■藤川 亜也
この朝を遠足の園児通るといふその母のメールが弾むがに届く
■三木 泰葉
世を隔つる友となりたり三つ編みの乙女の頃の浮かびて消えず
■角 利津
均衡のとれねば杖にすがりつつ葱三本を抜くみそ汁の具にと
■末宗 千歳
孫二人の入学試験は終了す何はともあれ一安堵なり
■山下 照夫
ここにゐて鼓打ちゐる尉鶲大原總一郎は何と聴くらむ
■山下 三景
定年にいだいた花束ずつしりと苦難をこえた年月を想ふ
■新田みどり